水の分析
硬度とは水に含まれるカルシウムとマグネシウムの合計量を数値化したもので、この数値が高いものを硬水、低いものを軟水と呼ぶ。
化学辞典1)では、ドイツ硬度で硬度10度(CaCO3に換算すると178 mg/L)以下は「軟水」、20度以上を「硬水」(同357 mg/L)、その間を「中間の水(中硬水)」と分類している。
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)はCa2+などの金属陽イオンと1:1の錯体(キレート錯体)を作るので、これを利用して(キレート滴定)Ca2+、Mg2+を定量、すなわち硬度を測定できる。
試料水に含まれるCa2+とMg2+は、指示薬EBTと赤紫色の錯体を生成する。
この溶液にEDTAを滴下していくと EDTAはEBTよりも金属イオンと安定な錯体を形成するので金属EBT錯体から金属を奪い取り無色の金属EDTA錯体を形成する。
ここで遊離したEBTは青色なので溶液は終点に近くなると青みを帯びてくる。
金属イオンをMとすると次のようにあらわすことができる。
M-EBT + EDTA → M-EDTA + EBT
(赤紫色) (無色) (無色) (青色)
終点では溶液中のM-EBTがEDTAによって完全に置き換わるので、溶液は完全に青色になる。
この滴定値(終点までに滴下したEDTAの量)からCa2+とMg2+の濃度を求め以下に述べるように水の全硬度に換算する。
また、別に試料をとり、pH=12にするとEDTAとMg2+は水酸化物となりEDTAと反応しないので、金属指示薬NNを用いてCa2+の量だけを求め得る。
両滴定値の差からMg2+量を算出する。
★実験の手順★
≪硬度≫
@試料水を硬度に応じ、25 mL、50 mL、100 mLのいずれかの量(硬度が高い場合は25mL、低い場合は100mLとる)を、ホールピペットを用いて正確にコニカルビーカーにとる。
ApH=10の緩衝溶液2 mL 加える。(pH=10の溶液中ではカルシウムもマグネシウムもイオンの状態(Ca2+とMg2+)で存在するので、両方ともキレートを生成する。
硬度が高いと予想される場合、pH=10の緩衝溶液を加えるとHCO3−+OH−⇔CO32−+H2Oの平衡が右にかたより、CO32−が増加する。
この時水に含まれるCa2+の量が多い場合、CO32−と結合しCaCO3の白色沈殿が生ずる。
CaCO3が生じると、溶液の中のCa2+の濃度が減少するため、正確な硬度を求めることができない。
この問題を解決するためには、あらかじめ予備試験をして、おおよそのEDTAの必要量を求め、これより1〜5 mL程度すくないEDTA量を試料にまず添加する(これにより、あらかじめCa2+とEDTAのキレート錯体を生成させCO32−が増えてもCaCO3が沈殿しなくなる)。そのあと以下の操作を行うこととする。)
BEBT指示薬1〜2滴を加える。
C振り混ぜながらEDTA標準溶液で滴定する。
EBT指示薬の赤色が青色となり、赤みがなくなった時が終点である。3回の滴定の平均をとる。
≪Ca2+≫
@試料水を硬度に応じ、25 mL、50 mL、100 mLのいずれかを選択し、ホールピペットを用いてコニカルビーカーにとる。
A6 mL/L KOH溶液4 mL(pH=12ではマグネシウムは水酸化物Mg(OH)2になり、キレートを生成しない。)を加えてよく振り混ぜ、1分間放置する。
BNN指示薬0.1 gを加え、EDTA標準溶液でNN指示薬の赤色が青色となり、赤みがなくなった時が終点である。3回の滴定の平均をとる。
★結果の処理2)と結果★
硬度は水中に存在するカルシウムイオンとマグネシウムイオンの合計物質量と等しい物質量の炭酸カルシウムCaCO3の質量に換算し、mg/Lを単位で表したものである。
EDTAの1分子は1個のCa2+あるいはMg2+と錯体を作るので、Ca2+、Mg2+の式量を考えると、
0.01 M EDTA 1 mL = 0.01 M CaCO3 1 mL = 1.001 mg CaCO3
0.01 M EDTA 1 mL = 0.01 M Ca2+ 1 m L = 0.4008 mg Ca2+
= 0.01 M Mg2+ 1 mL = 0.243 mg Mg2+
EDTAのファクター・・・f
Ca2+とMg2+の滴定における試料水量 ・・・V mL
Ca2+とMg2+の滴定に要したEDTA溶液・・・ b mL
Ca2+の滴定における試料水量・・・VCa mL
Ca2+の滴定に要したEDTA溶液・・・a mL
従って右のように文字を置くと下のようになる。
硬度(CaCO3 mg/L)=b×1000/V×1.001×f
Ca2+mg/L=a×1000/VCa×0.401×f
Mg2+mg/L=(b/V-a/VCa)×1000×0.243×f
17種の水を試料とし、キレート滴定法を行い、硬度とCa2+、Mg2+の量を決定した。その結果を表1に示す。
表1 様々な水の分析結果

★考察★
A〜Cの結果から、やはり硬度には大きな差があることが分かった。
Dはイオン交換樹脂を通した後に蒸留処理をしており、無機物イオン自体含まれていないため、硬度0という結果になった。
G〜J、Oの結果から、県内の水は全て軟水であるということが分かる。
これが浄水作用による影響かどうか確かめるために、浄水前後の水を分析したところ、E〜Gに示すように、の結果から、浄水前から本学化学実験室に配水されてくるまでに硬度、Ca2+、Mg2+の値に変化はなく、浄水作用による影響はないと考えられる。
よって、水道水を調べれば、その原水の性質が分かるということが言える。
県内には硬度が高い水を得ることができないのか考えた所、石灰岩体である鍾乳洞と男神・女神山周辺の水はCaCO3の影響のため硬度が高くなると予想した。
Mの結果から石灰岩体である竜ヶ岩洞の水は軟水に分類されるが比較的硬度は高い。
これはやはり石灰岩に触れる機会が多いためであると考える。
Nの結果から、竜ヶ岩洞の水を処理して販売されている水では、硬度が低く、なおかつCa2+の量が多いため、健康に良く、おいしい水と言われている理由が良く分かった。
PとQの結果から、石灰岩の影響により水の硬度は高く、またその近くの農業用水も影響を受けていることがわかる。
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