9.最後に


青空と夕焼け空

ブラウン運動と関連する現象が,あなたのよく知っている事の なかにあります.

夕方の空があかね色に染まるのはなぜでしょうか.日中空が青く 見えるのはなぜでしょうか.あなたは,空気のない人工衛星や月の上からとった写真で ,太陽が出ているのに空が暗く写っているのを見たことがあるでしょう.青空や夕焼け 空は地球表面に空気があるからです.

空気の分子は乱雑な熱運動をしています.そのために,いつも どこでも空気の密度が一定にはならず,あちこちに空気の濃いところと薄いところが できたり消えたりしています.1ミクロン程度の広がりで空気の濃いところのとなり に薄いところができると,太陽の光は屈折します.プリズムを通すと太陽の光が虹の 七色に分かれるように,この場合にも屈折した太陽の光は色によって分かれます.く わしい説明ははぶきますが,そのために昼間の太陽の光が私たちの目に届くときに, 赤っぽい光がぬけて青く見えるのです.また,夕方には青っぽい光がぬけて赤く見え るのです.

分子の存在がこのような事に関係するなんておどろきですね.


ブラウン運動の歴史

ブラウンはブラウン運動を発見しましたが,ブラウン運動が なぜ起こるのかについてはついに解明することができませんでした.

それから80年ほど後の,原子や分 子がほんとうに存在するかどうかが科学者のあいだで論争になっていたころの 1905年に,有名なアインシュタインが,ブラウン運動に関する画期的な理論 をうちたてました.彼がまだ26歳の若さのときでした.分子は非常に小さいけ れど,熱運動で乱雑に動いているたくさんの分子が微粒子に衝突したとき,微粒 子がそれに突き動かされるのを観測できるかどうかを理論的に調べました.結論 は,1ミクロンほどの大きさの微粒子でブラウン運動が当時の顕微鏡で観察でき る,というものでした.もし微粒子のブラウン運動が観察できるなら,それは分 子や原子が実際に存在する証拠になるからです.しかし,アインシュタインがそ の理論を考えたときには,アインシュタインは,80年ほど前にすでにブラウン によりブラウン運動が発見されていたことを知らなかったようだと言われていま す.


アインシュタインのブラウン運動の理論にはいくつかの仮定 が含まれていました.ペランはそれらをすべて実験でくわしく検証し,アインシュ タインの理論が正しいことを示しました.後にその業績でペランはノーベル賞を受 賞しました.(なお,アインシュタインは1921年にノーベル物理学賞を受賞し ていますが,それは別の業績の光量子論に対してです.)ランジュバンはアインシ ュタインの理論をより基礎的なレベルから理論づけました.それは今日でも,統計 力学とよばれる物理学の分野の基礎理論となっています.私たちのブラウン運動の シミュレーションにはランジュバンの式をもちいました.

以上に述べたような経緯をへて,どの科学者も原子の実在が確 かなものであることを確信するようになりました.


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