ブラウン運動

はじめに

中学校の理科の授業であなたは原子や分子のことをもう学んだ でしょうか.

そのときに,原子や分子は非常に小さくて,水素原子の大きさは1cmの約1億分の1く らいしかないことも学んだと思いますがおぼえていますか.そんなに小さな原子です から,学校にあるふつうの顕微鏡ではまったく見ることができません.

走査トンネル顕微鏡(STM)という最新の技術をつかって,IBM チ ューリッヒ研究所のビニッヒ(Binnig)とローレル(Rohrer)という二人の研究者が, 1982年にはじめて,結晶表面の原子の像を写真にとることができたのです.この二人 はその業績で1986年にノーベル物理学賞を受賞しました.

このような写真があなたの学んでいる理科の教科書にのっている かもしれません.これによって人々は初めて原子の像を目で見ることができたので す.

でも,科学者たちはそれよりずっと前から,物質を構成している 原子の存在を確信していました.なぜ,目で見ることができないのに,原子が存在する と確信できたのでしょうか.その決定的なきっかけがブラウン運動という,今ではふつ うの顕微鏡で簡単に観察できる,水中の微粒子のジグザグ運動の発見によりもたらされ ました.ブラウン運動が発見され,ブラウン運動の仕組みが理解される以前には,科学 者のなかに原子の存在を否定する人もすくなからずいたのです.

あなたのそのような疑問に答えてくれるよい本があります. それは江沢洋先生が書いてくださった『だれが原子をみたか』(岩波科学の本.岩波 書店)です.この本には原子の存在が確信されるまでの科学者たちの論争の歴史と, ミクロな原子の運動について語られています.ぜひ読んでみて下さい.

この本はあなた一人だけで読んでもよいのですが,あなたの友達 や理科の先生とともに,実験もこころみるようにして,議論をしながら読むことをすす めたいと思います.

このウェブページはそのときの理解のたすけになるようにつくり ました.どうぞ参考にして下さい.このウェブページを見てから,あとで『だれが原子 をみたか』を読んでもかまいません.

それでは,花粉から出た微粒子の観察がきっかけで発見された, 微粒子の運動,その運動の様子,仕組みから性質まで,映像やシミュレーションを 見ながら考えていきましょう.


もくじ

  1. ブラウンの発見

    ブラウン運動の歴史について述べます.植物学者のブラウンは, 生命の本質をさぐるために植物の花粉を顕微鏡で調べていて,思いがけないことを 発見しました.水中で水分を吸収して割れた花粉のなかから飛び出した微粒子が, いつまでもピコピコジグザグした動きを続けていました.花粉は植物が種をつくり, 子孫をのこすために欠かせません.これはブラウンの期待していたように,生命の 小さなみなもとだったのでしょうか.

  2. ブラウン運動の映像

    ブラウン運動の顕微鏡映像をQuickTimeMovieで表示します.まず はともあれ,実際のブラウン運動の映像を見てみましょう.水の中の花粉の微粒子, 線香のけむり,水の中のラテックスという微小な樹脂の粒子のブラウン運動です. それらと比べてみるための,池の水の中の微生物の運動の映像もあります.

  3. ブラウン運動の仕組み

    生物でない微粒子がブラウン運動をし続けるには,微粒子をたえず 突き動かしているものがあるはずです.それは何でしょう.それは微粒子にどのような 力を与えて微粒子を運動させ続けているのでしょう.

  4. ブラウン運動のシミュレーション

    微粒子はどのようにブラウン運動をしているのでしょうか. 平面上を運動するブラウン粒子の運動経路をシミュレーションでもう少しくわしく 見ていきます.

  5. ブラウン粒子の拡散

    デタラメな運動をしているブラウン粒子のあつまりは時間が たつにつれて拡散します.その様子を見ます.

  6. インクの広がり

    水の中に青インクを落とすと,時間の経過とともにインクは次第に 広がり,やがて水全体が均一に薄く青くなります.これはインクの各微粒子が水中でブ ラウン運動をしているからです.つまり垂らしたインクはブラウン粒子のあつまりで, ブラウン運動で拡散したのです.その様子のシミュレーションです.

  7. ブラウン運動にひそむ規則性

    たくさんの粒子の運動を考えると,デタラメなだけと思われる ブラウン運動にひそんでいる規則性が見えてきます.シミュレーションから得られ たデータと「2.ブラウン運動の映像」のところのラテックスの微粒子のブラウン 運動を分析して得たデータと比較してみます.

  8. ばね振動のブラウン運動

    細い弾性をもつ糸で空気中に吊した小さな鏡が空気分子の 衝突で回転のブラウン運動する様子を,ばねにつけられた重りの振動のモデルを 使ってシミュレーションします.

  9. 最後に

    青空や夕焼け空の色と空気分子の熱運動との関係について, そしてブラウンの発見以後のブラウン運動に関する歴史について述べます.


制作:月居 一誠 [Kazumasa Tsukiori]
tsukiori@po.across.or.jp
監修:石川 正勝 [Masakatsu Ishikawa]
ishikawa@tokoha-u.ac.jp